十訓抄の中で、和歌を使ってピンチを切り抜けたり、相手を言い負かしたりする特に面白くて有名なエピソードを教えてください。
『十訓抄(じっきんしょう)』の中で、和歌を使って相手をコテンパンに言い負かす、最高にスカッとする超有名エピソードがあります。 それが、高校の教科書にも必ず載っている『大江山(おおえやま)』というお話です。 このお話は、まさに現代で言う「生意気な先輩のイジワル(マウンティング)を、新人が天才的なアドリブで完全論破して、先輩がガチ泣きで逃げ出す」という勧善懲悪のドラマのような構造になっています。 主人公は小式部内侍(こしきぶのないじ)という若い女性。彼女の母親は、当時、超天才歌人としてブイブイ言わせていた和泉式部(いずみしきぶ)です。 お母さんが凄すぎるせいで、世間からは「あの子の歌、実はお母さんが代わりに作ってるんじゃないの?」と疑われていました。 ある日、宮中で大きな歌のコンテスト(歌合)が開かれることになり、小式部内侍も出場することになりました。ちょうどその時、お母さんは遠い地方(今の京都府宮津市あたり)に行っていて留守でした。 そこへ、ちょっと鼻持ちならない先輩貴族の定頼中納言(さだよりのちゅうなごん)がやってきて、小式部内侍の部屋の前を通りすがりざまに、こうニヤニヤしながら話しかけたのです。 「おや、お留守番ですか? お母さんのところに送ったお使いの人は、もう帰ってきました? 歌の代作、まだ届かなくてハラハラしてるんじゃないですか?(笑)」 「どうせ今回もお母さんに作ってもらうんでしょ?」という、最低の嫌がらせです。 普通なら悔しくて泣き寝入りするか、怒るかのどちらかですが、小式部内侍は違いました。 通り過ぎようとする先輩の服の袖をガシッと引っ掴んで引き留め、その場で即興の和歌を叩きつけたのです。それがこの歌です。 大江山 いくのの道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立 (おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて) この歌を浴びせられた先輩の定頼は、「えっ!? なにこれ、信じられないくらい上手いんだけど…!」と大パニックに陥ります。 当時のルールでは、歌を詠まれたらオシャレな歌で返さなければいけないのですが、定頼はあまりの衝撃に頭が真っ白になり、一言も返せなくなってしまいました。 結局、定頼は「こんなことってあるかよ!」と叫び、掴まれていた袖を力まかせに引きちぎるようにして、そのまま走って逃げ出してしまいました。 これ以降、小式部内侍の代作疑惑は完全に消え去り、「本物の天才」として歴史に名前を残すことになります。 この31文字の中には、前のステップでご紹介した「掛詞(ダジャレ)」がこれでもかと美しく、かつ攻撃的にトリプルで仕込まれています。 つまり、表面上は「大江山を越えていく道は遠いので、まだ天の橋立(お母さんのいる場所)へ行ったことはありません」と言いつつ、 裏では「お母さんのいるところは遠いんだから、お使いの人が『行く』わけないし、お母さんからの代作の『手紙(文)』なんて『見て』るわけないでしょ!全部私の実力よ!」と言い返しているのです。 相手の「お使いは帰ってきた?」という質問に対して、地名とダジャレを完璧に絡め、「行ってないし、手紙も見てないわよ、バーカ!」と即興で論破したわけです。 『十訓抄』の教訓として: このお話は『十訓抄』の中で**「人をあなどってはいけない(ナメた態度をとると、手痛いしっぺ返しをくらうぞ)」**という章に収録されています。 嫌味を言ってきた相手を、その嫌味のセリフを逆手にとった超絶テクニックで黙らせる。まさに和歌を使った「痛快なバトル」の最高峰エピソードです!『大江山』のざっくりストーリー
① ナメられていた新人「小式部内侍」
② 先輩貴族のイジワルなマウンティング
③ 服を引っ掴んでの、天才的なカウンター和歌!
④ 先輩、返歌もできずにガチ逃げ
なぜこの和歌で「言い負かせた」のか?(仕掛けの解説)